第67章 これは人を苛立たせる

原口美愛を見送ったあと、有岡里穂はホテルの正面でしばらく立ち尽くしていた。

阿部蓮太郎は空を一瞥する。どんよりと沈んだ雲が、四方から重たく寄り集まってくる。

彼は目を伏せ、隣にいる彼女へ静かに言った。

「行こう。帰るぞ」

里穂は身を翻し、阿部蓮太郎を見上げる。

「阿部蓮太郎……私、有岡家に戻らないと」

今日ここへ来る前から、言うことは決めていた。けれど途中で彼が「飯でも食おう」と言い出して、食事のあとで話せばいいかと先延ばしにした。

まさか外へ出た途端、あんな気まずい場面にぶつかるなんて思いもしなかった。

阿部蓮太郎は、彼女の「帰る」の意味を正確に理解してしまう。伏せた瞳の奥...

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